現在、ヒアルロン酸注射を打つために定期的に通院しているけれど、ヒアルロン酸による膝の痛みの改善には個人差があると言われている通り、自分には目立った改善は見られない。
今までは服薬やヒアルロン酸注射でやり過ごしてきたが、最近になって膝の痛みが悪化。人工膝関節手術をすれば症状が改善されるのはわかっているけれど、手術をするのは正直怖い。
膝痛を改善するために人工関節手術を受けたいが、そのためには1カ月程度の入院が必要。しかしながら、仕事や家事、介護があるので、長期入院やリハビリのための通院が難しい。
ずっと付き合っていかなければならない病気だからこそ、自分の希望や生活環境を理解した上で、自分に適した治療法を積極的に提案してくれる先生に治療をしてもらいたい。
膝関節は、太ももの骨(大腿骨)・すねの骨(脛骨)・ひざの皿(膝蓋骨)から構成される関節で、それぞれの表面は弾力性のある軟骨に覆われています。軟骨は、骨同士の摩擦を防ぎ、スムーズに関節を動かしたり、体重がかかった際の衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしたりしています。歩行時には体重の約3倍の負荷が膝関節にかかると言われていますが、それでも膝の痛みを感じず滑らかに動くのは、軟骨があるからです。
軟骨は加齢や体重の増加、怪我などにより、徐々にすり減ってしまいます。しかし、軟骨や骨には神経が通っていないので、軟骨が削れることや、骨同士が直接ぶつかってしまうことで膝の痛みが発生するわけではありません。軟骨がすり減った際に出る摩擦片によって、関節内で炎症が起こることが『膝関節症』の痛みの原因です。炎症が続くと、軟骨が摩耗するだけでなく、骨が固くなったり、変形したりして、さらに膝痛が悪化します。
一度すり減ってしまった軟骨が元に戻ることはほぼありません。そのため、『膝関節症』の治療は、服薬により膝痛を抑えたり、軟骨の主成分であるヒアルロン酸を直接関節内に注入し、関節の動きをスムーズにしたりするなど、対症療法が主となります。抜本的に症状を改善するのであれば、膝関節自体を人工のものに置き換える人工膝関節手術が主流でしたが、ここ最近は、血液や細胞の自己修復機能を使った再生医療も行われています。
すり減ってしまった軟骨が自然と元に戻ることはないため、人工関節を入れる以外で『膝関節症』の根治は難しいと考えられてきました。しかしながら昨今、患者本人の 血液や幹細胞などを体外で人工的に加工、培養し、再び体内に移植することで、病気やケガの治癒を目指す『再生医療』が目覚ましい発展を遂げており、『膝関節症』の治療でも高い効果が期待されています。その主な治療方法が、血小板由来の成分を使用した『PRP治療』と幹細胞由来の成分を使用した『培養幹細胞治療』です。
血小板の自己治癒力を活かした治療法です。患者自身の血液から血小板を抽出し、濃縮したPRP(多血小板血漿)を作成します。このPRPには、成長因子が多く含まれており、膝関節に注入することで、活発な細胞分裂が行われ、長期的な抗炎症効果や組織の再生効果が期待されます。
抗炎症効果や体内で鎮痛効果のある物質を産生できるといわれる幹細胞を患者自身の脂肪から採取し、培養・増殖させ、再び膝関節に注入する治療法。培養幹細胞の投入により、軟骨の厚みが増したという症例も確認されており、軟骨を再生する機能があるのかどうか研究が進められています。
血小板にはサイトカインと呼ばれる炎症を抑えるタンパク質が含まれています。そのため、血小板を多く含んだPRPを膝関節に注入することで、『膝関節症』における抗炎症効果が期待されています。さらに、血小板には多数の成長因子が含まれており、その中には皮膚や骨、軟骨などの組織の修復において重要な役割を果たすコラーゲンを新しく作り出す作用もあるため、組織の再生効果も期待されています。
『PRP治療』は一度の採血と、その後の膝関節への注射で治療が完結するため、入院や手術、リハビリなどの必要はありません。治療後はすぐにいつも通りの生活をしても問題はありません。また、PRPにより細胞の自己修復機能が活性化するのは注入後約1カ月間ですが、その間に組織が修復すれば、その後の持続的効果も期待できます。何度も通院するのが難しいご事情をお持ちの患者さんにお薦めの治療法です。
人工関節手術には、少なからず合併症のリスクが付きまといます。特に、内臓疾患のある方や、高齢で体力が低下している方にとって、そのリスクはより高まります。また、人工由来の成分を注入するヒアルロン酸注射についても、アレルギーや副作用が起こる可能性は0ではありません。PRPは100%自己血液を活用しているため、手術による合併症や注入することでの副作用をできる限り回避できる注入剤と言えます。
欧米におけるスポーツ医療では、組織修復するための手段として『PRP治療』が行われてきました。手術でメスを入れることをせずに元の状態に戻し、少しでも早い復帰を望むサッカー選手やメジャーリーガーなどプロアスリートの多くが『PRP治療』を行っています。最近ではアメリカの大リーグで活躍する大谷翔平選手がひじ靭帯の治療のために右肘にPRP注射を打ったということで話題になりました。
『PRP治療』は近年目覚ましい発展を遂げている再生医療のひとつです。しかしながら、再生医療を行う病院はまだ限られており、膝関節症の治療においても、ヒアルロン酸注射や人工関節手術に比べ、『PRP治療』を受けられる病院は少ないのが現状です。再生医療をはじめ、新たな治療法への勉強や研究に情熱を注ぎ、良いものは積極的に取り入れているかどうかも、病院選びのポイントです。
膝関節症の新たな治療法として注目を集める『PRP治療』ですが、誰に対しても万能というわけではありません。『PRP治療』で改善が見込める人、ヒアルロン酸注射で効果を感じる人、人工関節手術の必要がある人など、適した治療法はぞれぞれです。『PRP治療』を選択しないことを含めて、患者さんの状態を踏まえて総合的に判断し、適した治療法を提案してくれる病院を選ぶことがお薦めです。
膝関節症の症例や治療に対する知識が豊富で、今もなお研究や情報収集を怠らない、膝関節症に精通した医師が『PRP治療』に携わっているかどうかも病院を選ぶ際には重要です。また、医療に素人である患者にもわかりやすい説明を心がけているかどうかというのも大切にしたいポイントですよね。その病院のスタンスは、医院長の考え方やホームページの情報などに現れますので、参考にしてください。
基本的には血液を採取する1回と、注射で患部に注入する2回の通院で治療は完了します。入院やリハビリのための通院は必要ありません。血液の採取からPFC®フリーズドライを生成し、注入するまでには約3週間程度かかります。
まだ新しい治療法であり、明確にはわかっていません。個人差もあると思われます。PRP治療は即効性の効果だけでなく、時間の経過とともに効果が出てくることが期待されております。当院でも注射後1週より1か月経過してさらに効果が出ているケースが多くみられます(もちろん、早期に改善しているケースもあります)。PRP治療はヒアルロン酸注射とは異なり、長期的な効果が期待できる可能性がある注射です。
治療中に痛みを伴う事はまずありません。ヒアルロン酸注射と同じと考えてもらえばいいと思います。
保険診療は適応されません。自費診療となります。
PRP療法は自己血液を用いているため、アレルギーなどの合併症はありません。また、細胞加工センターで感染症検査を行い、無菌環境下で加工・作成を行っています。そのため、極めて安全性は高いと考えられます。一方で、ヒアルロン酸注射は人工由来であり、アレルギーなどの副作用の可能性もゼロとは言えない事を考えると、ヒアルロン酸注射よりもPRP療法の安全性は高いと言えます。